家族法—離婚 親権 子どもの監護 面会交流
本多法律事務所でのしばしば受ける質問と答えです。
1 離婚をしたいのですがどうしたら離婚できますか?
2 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚はどの順番に試みれば良いのですか?
3 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚にあたり決めるべきことは?
4 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚にあたり決めることができることは?
5 子の監護について必要な事項を決めたり,財産分与の請求をしたりすることは,離婚した後でも出来ますか。
6 私は離婚したくないのですが,万一,離婚訴訟で負けたときに備えて財産分与を求めることはできるのでしょうか。
7 家に帰ったら子どもと夫/妻がいませんでした。私の同意もなく子どもを連れて外国に行ってしまったようです。子どもだけでも戻って来てもらうことはできますか?
8 夫から暴力を振るわれているので逃げたいです。離婚もしたいのですができるでしょうか?
9 日本でなされた協議離婚はイギリス(イングランド)で有効な離婚と認められますか?
10 日本でなされた協議離婚はアメリカ合衆国(各州)で有効な離婚と認められますか?
11 面会交流については日本の裁判所は現在どういう考え方をとっていますか?
離婚する主な方法は次の3つです。
1.1. 協議離婚
夫と妻が協議(合意)して離婚の届出を市区町村長にすることによる離婚です。届出の用紙は市区町村役場にあります。離婚することのほか未成年の子があるときには親権者の指定についても合意がないと協議離婚はできません。
協議離婚のための交渉や合意書の作成なども弁護士は行っています。
1.2. 調停離婚
夫と妻が家庭裁判所で話し合い,離婚することについて合意ができたときに成立する離婚です。やはり離婚することのほか未成年の子があるときには親権者の指定についても合意することが必要です。
離婚したい夫または妻が家庭裁判所に調停の申立てをします。
調停は,通常,男性女性一組の家事調停委員が夫と妻のそれぞれからその主張を聞きながら進めます。もっとも,家事事件手続法は,調停の進め方についていろいろなありかたを認めています。
家庭内暴力のあったような場合には,裁判所も当事者・関係者の安全に配慮するようになっています。
1.3. 裁判上の離婚
離婚をしたい夫または妻が,離婚したくない妻又は夫を相手にして,家庭裁判所に離婚を求める申立てをして,裁判(人事訴訟)で離婚する方法です。
相手方と合意がなくとも,民法770条に定める離婚事由があれば離婚が判決によって認められます。離婚事由には,1号「配偶者に不貞な行為があったとき」(ただし例外あり)や5号の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」などがあります。これらの事由の解釈は,最高裁判所の判例や各裁判所の裁判例によって詳しく具体化されています。
弁護士は,依頼者の方から事実関係を聞き取り,判例裁判例に照らして,これらの事由の有無についての主張を組み立て,証拠の整理・提出を行います。
裁判上の離婚は,相手方が離婚したくない場合においても離婚を求めることのできる方法ですが,他方で手続的にはそれだけの時間と費用がかかることもあります。
家庭裁判所で離婚するとの判決を得ても,相手方が控訴すれば高等裁判所での裁判が続くことになりますし,高等裁判所で離婚することが認められても,相手方が上告すれば最高裁判所での判断を待つことになります。
しかし,裁判の途中で相手方と合意すれば訴訟における和解により離婚することもできます。和解が成立すれば訴訟は終了し,控訴・上告が続くことはありません。
他方で,離婚を求められた側は,あくまで離婚請求の棄却を求めるか,あるいは和解により訴訟を終了させるかを検討することになります。
このような訴訟において困難な立場におかれた各当事者と共に在り,訴訟行為を追行し,相手方と裁判所の内外で交渉するのは弁護士の役割です。
1.4. 調停前置主義
裁判上の離婚の訴えを提起しようとする者は,原則として,まず家庭裁判所に離婚の調停の申立をしなければなりません。
統計上も調停離婚と判決による離婚は9対1ぐらいで調停離婚の割合が高くなっています。
調停において友好的な話し合いを進めて各当事者にとり建設的な合意を形成するように活動することは家族法専門弁護士に求められるようになってきています。
2. 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚はどの順番に試みれば良いのですか?
多くの場合にお勧めできる順番としては,まず協議離婚を試みて,相手が離婚に応じないことがわかれば調停離婚を申立て,調停でも離婚が成立しなければ裁判を行います。
もっとも,当事務所にご相談にいらした段階で,それまでの経緯から協議離婚はもう無理なことがわかったので,次の段階として,調停離婚の申立についてご依頼をされる方もいらっしゃいます。
他方で,協議離婚の話し合いを進めたいのでその援助をご依頼される方もいらっしゃいます。
いずれにせよ依頼者の方に最適な手続を依頼者の方が選べるように弁護士がアドバイスをいたします。
夫又は妻のいずれかが外国国籍を有している場合など渉外的な要素がある婚姻については,日本で行った離婚が他の国・法域において効力を認められるかなど種々の問題について考える必要があります。夫婦の間に未成年の子がいる場合には,とくに考えるべき問題があります。くわしくは信頼できる弁護士にご相談ください。
3. 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚にあたり決めるべきことは?
夫婦の間に未成年である子がいるときには,離婚までは夫と妻の両方が父・母として親権者ですが,離婚にあたりどちらかだけが親権者として定められます。協議離婚では夫婦の協議で一方を親権者として定めます。調停離婚では夫婦の合意により定めます。裁判上の離婚では、裁判所が父母の一方を親権者として定めます。
4. 協議離婚,調停離婚,裁判上の離婚にあたり決めることができることは?
夫婦の間に未成年である子がいるときには,子どもの監護について定めることができますし,定めることが望ましいと考えられています。民法766条1項において,「夫婦の間に未成年である子がいるときには,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」とあるとおりです。
また夫婦の間の問題として,財産分与の問題があり,これも離婚にあたって決めることも可能です。
手続としては,離婚の調停と同時にこれらの事項について合意ができて調停が成立すれば同時に解決できます。
また,裁判上の離婚の場合には,離婚を認める裁判と同時に,子の監護に関する処分や財産の分与に関する処分・標準報酬等の按分割合に関する処分をするように求めることができます(人事訴訟法32条附帯処分)。
離婚に当たっては,いわゆる年金分割の割合を定めること(標準報酬等の按分割合に関する処分)もしておくことをお勧めします。
4.1. 父又は母と子との面会及びその他の交流
いわゆる面会交流です。子どもと一緒に住んでいない親が子どもと面会したり,その他の交流をしたりする方法や日時について定めます。
4.2. 子の監護に要する費用の分担
子どもと一緒に住んでいない親と子どもと一緒に住んで監護をしている親との間で費用の分担を決めておくことです。通常,子どもと一緒に住んでいない親から子どもと一緒に住んでいる監護親に対して養育費を支払うことを決めます。
4.3. 財産分与
離婚をした一方から他方に対する財産の分与の請求です。主として,夫婦間の財産の清算分配のために行われており,当事者双方がその協力によって得た財産の額などの事情を考慮して決めます。原則として夫婦で2等分します。
5. 子の監護について必要な事項を決めたり,財産分与の請求をしたりすることは,離婚した後でも出来ますか。
子の監護について必要な事項を決めたり,財産分与の請求をしたりすることは,離婚した後でも出来ます。
もっとも財産分与は,相手方と合意できないときなどは家庭裁判所に処分(審判)を請求して決めてもらう必要がありますが,離婚の時から2年を経過すると家庭裁判所に処分の請求ができません。財産分与は,離婚から2年までと覚えておく必要があります。
子の監護について必要な事項は,子どもが未成年であるうちは取り決めが必要な事項ですから,期間的な制限はありません。
6. 私は離婚したくないのですが,万一,離婚訴訟で負けたときに備えて財産分与を求めることはできるのでしょうか。
離婚訴訟では,離婚をしたい方が「原告と被告を離婚する」との裁判を求めるのに対して,離婚したくない方は「原告の請求を棄却する」との裁判,つまり離婚しないという裁判を求めることになります。
ところが,実際には離婚訴訟の進行が進むにつれて,万一のときには離婚するとの判決になりそうになるときがあります。
そのようなとき,離婚をしたくない方としては,万一,財産分与についてどうなるのか非常に不安です。離婚をしたい方は財産分与についても定めてくださいなどと裁判所には頼みはしていないでしょうし,離婚をしたくない方としては,理屈としては離婚するときにはじめて考えることになる財産分与について裁判所に申立をすることは気持の上ではできにくいことと存じます。
お勧めする解決方法は,(1)「原告の請求を棄却する」との裁判を求めつつ、(2)仮に離婚の請求を認容する判決があるときには,財産の分与に関する処分についての裁判を同時に行うように申し立てる方法です。これは,人事訴訟法32条の附帯処分の一つとして認められています。
7. 家に帰ったら子どもと夫/妻がいませんでした。私の同意もなく子どもを連れて外国に行ってしまったようです。子どもだけでも戻って来てもらうことはできますか?
国際的な子の連れ去りについては,一日も早く弁護士の援助を受けることをお勧めします。子どもの所在が判明していなくともできることもあります。
またさまざまな事情から,子どもを連れて外国から日本に来た方や日本から外国に行かれた方にも,今後の司法的な手続を生活の安定をはかりつつ進めるために弁護士の援助を受けることをお勧めします。
当事務所は,子どもが他の国・法域に連れ去られた場合についても,子どもを連れて他の国・法域に移動するという場合についてもご相談に応じております。
国際的な子の連れ去りについては外国の家事事件専門弁護士(アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ・南アフリカ・香港など)と連携をとって解決にあたっています。
8. 夫から暴力を振るわれているので逃げたいです。離婚もしたいのですができるでしょうか?
配偶者からの暴力は離婚原因となります。離婚したいという気持ちがあれば離婚できます。
夫があなたに接近することを禁止する命令を裁判所から得る手続(DV防止法の保護命令)もあります。同居の恋人や同居していない恋人からの暴力の場合についてもご相談ください。
シェルターに一時的に入って身の安全を確保することもできます。
9. 日本でなされた協議離婚はイギリス(イングランド)で有効な離婚と認められますか?
Family Law Act 1986 s46により有効であるとの判例があります(Morris The Conflict of Laws 7th, at 270.)
もっとも協議離婚の際の事情などが考慮されることも考えられますので詳しくは弁護士に相談することをお勧めします。
10. 日本でなされた協議離婚はアメリカ合衆国(各州)で有効な離婚と認められますか?
私は日本国籍のみを持つ日本人で夫はアメリが合衆国のA州にて生まれときから住んでいるアメリカ合衆国籍のみを持つアメリカ人です。私と夫は,A州でA州法の方式・やり方で婚姻しました。この婚姻は東京の区役所に報告として届出をしています。しかし,夫と私は,話し合いで夫はA州に,私は東京で別々に生活しています。夫と話し合って離婚することに合意できそうです。 東京の区役所で協議離婚の届出をすれば,アメリカ合衆国での離婚手続は必要ないのでしょうか?
そもそもご質問のような夫婦の協議離婚の届出が区役所等でできるのかどうかが問題となりますが,これについては現在では協議離婚ができるようになっています。もっともその協議離婚の効力がどうなるかは検討の必要があります。
(1)もちろん,東京の区役所で協議離婚の届出をすることで,日本の各種役所の行政上の扱いや裁判所での手続では離婚の効力が原則として認められることになると予想されます。
もっとも,離婚の一般の場合と同様に,離婚が届出としての方式を満たさず届出として成立していないとき,あるいは離婚意思が認められず無効であるとき,強迫による離婚として取消しが認められたときなどは,離婚の効力はみとめられません。
(2)次に,日本での協議離婚の届出をしたことによって,アメリカ合衆国(の連邦や各州)において離婚の効力が認められるかどうかは別問題となります。
日本でのある協議離婚も,それが日本で有効な離婚とされる場合であっても,各州の行政機関や裁判所は「そもそも協議離婚という(裁判所の判決ではない)手続で有効な離婚ができるのか」「この協議離婚がこの州では有効な離婚として認められるか」について独自に判断することができます。その結果,この協議離婚は有効ではないという判断をすることもありえます。
アメリカ合衆国は,各州ごとに異なる家族法の制定法・判例法があり,いかなる判断がされるかは各衆ごとに異なることになります。
結論としては,ご相談をされる方の事情に応じて,もっともよい方法について弁護士と検討することになります。
11. 面会交流について日本の裁判所は現在どのような考え方をとっていますか?
面会交流について,面会交流と子の福祉との関係についても,どのような要素を考慮して判断していくべきかについても,裁判例が変わって来ている時期であることは多くの弁護士が感じているところです。
面会交流は,子の福祉のために行われる性質のものですから,面会交流の権利は誰が有するかといえば,いずれの親でもなくその子ども自身であるということになります。
面会交流については,子どもの福祉のために,親同士が子どもの福祉のために協力的・建設的に(ないしストレスのないように)その方法について協議して,実施されることが望まれます。
子どもは毎日の生活の中で日々成長するものですから,ひとりひとりの子どもの事情に応じて面会交流が実施されるように,考え方の合う弁護士と相談していくことが大切です。
以下,判例学説についてまとめておきます。面会交流について,最高裁判所は,次のように述べています。
「父母の婚姻中は,父母が共同して親権を行い,親権者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うものであり(民法八一八条三項,八二〇条),婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても,子と同居していない親が子と面接交渉することは,子の監護の一内容であるということができる。そして,別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき,又は協議することができないときは,家庭裁判所は,民法七六六条を類推適用し,家事審判法九条一項乙類四号により,右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解するのが相当である。」(最決H12-5-1 民集54巻5号1607頁)
これについては,「面接交渉の内容は監護者の監護教育内容と調和する方法と形式において決定されるべきものであり,面接交渉権といわれているものは,面接交渉を求める請求権ではなく,子の監護のために適正な措置を求める権利」(杉原則彦・最判解民事篇平成12年度(下)21事件514-517)と解説されています。
以上を前提にして,どのような判断方法で面会交流の可否と内容について考えるのかついては,現在,おおむね次の2つの考え方が有力に説かれています。
その第1は,両方の親双方の事情を比較衡量するというものです。梶村太一元裁判官により,次のように説明されています。まず(上記の杉原説について)「いわば手続的請求権説といってよく,それは手続的審判申立権であって,実体的請求権ではないのである。」(新版注釈民法(22)親族(2)766条 at 142)と敷衍した上で,「審判で面接交渉を命ずるための判断基準は,いうまでもなく「子の利益」であるが,(中略)「子の利益」の判断にあたっては,権利であるかどうかという規範的な観点からは中立的な態度を採っていると解すべきことになる。そうでないとどういうことになるかというと,子の監護に関する処分の審判手続は非訟手続であるから,職権主義による変容は受けるけれども,それが子の利益を害することが明白にならない限り,原則的に認容されることになる(明白基準)。実際上,子の利益を害するかどうかの判断は微妙で,いずれとも判定し難いという事態は決して少なくないであろうから,この考え方に従う限り,結果として子の利益を害することになることがしばしば生ずることになりかねない。したがって,このような結果を容認できない以上,やはり「子の利益」の判断にあたっては,面接交渉を原則的に認めるという立場でも,逆に原則的に認めないという立場でもなく,純粋に子の立場に立って子の利益になるかどうかという観点から双方の事情を比較考量してこれを判断すべきことになるのである(比較基準)。そして,このような考え方は,面接交渉の法的性質について前述の手続的請求権説と親和的である。」(同 at 145)
その第2は,面会交流は基本的に有益としつつ具体的な事案に即して調整するというものです。進藤千絵・野田裕子(ひろこ)・宮崎裕子(ゆうこ)によって次のように説明されています。「家庭裁判所の実務においては,非監護親と子との面会交流は基本的に子の健全な育成に有益なものであるとの認識の下,その実施によりかえって子の福祉が害されるおそればあるといえる特段の事情がある場合をのぞき,面会交流を認めるべきであるとの考え方が定着しているものといえる。したがって,面会交流調停・審判の手続においては,子の福祉の観点から面会交流を禁止・制限すべき事由(面会交流の実施がかえって子の福祉を害するといえる特段の事情)が認められない限り,具体的な事案に即して,面会交流の円滑な実施に向けて審理・調整を進めることが基本方針(審理・調整の枠組)とされているといってよいと思われる。」(安倍・西岡 子どものための法律と実務 at 98)